チャイコフスキー作曲・ピアノ協奏曲第1番(分析)
チャイコフスキー作曲・ピアノ協奏曲第1番(分析)
チャイコンとは、音楽愛好家の間で、チャイコフスキーのコンチェルト(協奏曲)のことをこのように略して言うことがあります。
チャイコンにはピアノが3曲、ヴァイオリンが1曲あります。どれも非常に有名ですが、今回はその中でも超有名、ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 op.23をご紹介します。これはベートーヴェンやショパン、リストなどのピアノ協奏曲と並んで最も重要なピアノ協奏曲の一つといって良いでしょう。
この曲でまず特徴的なのは、ホルンの強烈な出だしです。かなり印象的な序奏の後、このモティーフを主体にして第1主題が提示されます。
この第1主題は変ニ長調。弦で表され、ピアノは4オクターヴに渡る和音の塊で伴奏にまわります。そして確保で役割を交代。これはロマン派以降のコンチェルトによくある交代方式です。
第2主題は、これは意見が分かれるところだと思うのですが、3連符の経過音で繋ぐコロコロ回るテーマだと考えます。ここは主調の変ロ短調。
そして第3主題がメロディックな変イ長調。木管群で表されたのち、ピアノが再現します。
この間に小さいカデンツァ的なものが挟まれ、セクションを分割しています。ソナタ形式の要である展開部は第2主題と第3主題を用いて行われます。
オーケストレーションは、コンチェルトと言うわけでピアノを食ってしまってはいけないので、全体的にかなり薄めに作ってあります。
とはいえ見せ場ではオケを1st ヴァイオリン〜チェロまで3オクターヴで重ね、チャイコフスキーらしい旋律がやたらと分厚いサウンドを見せます。これはピアノにも要求されていて、オクターヴが頻発するので(しかも素早いパッセージも多いので)、ピアニストには負担が大きい曲なのではないでしょうか。
さて、この曲には不思議な点と言うか、チャイコフスキーが趣向を凝らした点がいくつもあります。
まず第一に、第1主題が再現されないこと。
通常、この時代の協奏曲は3楽章形式で、その第1楽章はソナタ形式が定石とされていました。ところが、チャイコフスキーは第1楽章で第1主題を再現しない形をとりました。なぜか?・・・私にもわかりません。しかし、ん?、ほぉ〜、と思うところではあります。
展開部で散々第2、3主題の断片を聴かされているので、あの勇壮な第一主題が回帰するのを期待するのですね。しかし、されない。形式の上では、彼は聴衆の期待を裏切るわけです。ほぉ〜、う〜む。というところです。
あと趣向が凝らされているのは、変ロ短調とされている曲なのに、並行調の変ニ長調が主体であり、しかも終結は変ロ長調であることでしょうか。
さすがチャイコフスキー、こういったところにもオリジナリティがあります。
独奏曲だけに独創的といったところでしょうか。
いずれにしても、外観といいますか、一部分を聴いた時のインパクトだけでなく、細部も非常にインパクトのあるものになっている作品なのです。
(宮川慎一郎)