和声の範例(実施例)はどう活用すべきか?(範例の使い方について)

今日のテーマは、和声の実施において、範例(実施例)をどのように活用すべきかです。
つまり範例のうまい使い方についてのお話です。

日頃、生徒さんとの話題でよく出るお話なので、書いてみようと思います。

まず、ご存知の方も多いと思われますが、和声のテキストには、多くの場合、範例(はんれい=基本的にテキストの著者自身が実施した例)があります。範例はフランス語でRéalisation(レアリザシオン=「実現化」みたいな意味です)と言います。

和声や作曲の先生によっては、「範例は絶対買わないように」というお考えの先生もいらっしゃいますし、逆に、「範例をうまく使ってください」という先生もおられます。

しかし、「うまく使ってください」と言われても、具体的にどう使ったら良いか困ってしまうものです。
そこで、今日はこの部分について、私の考えをまとめてみます。

本題に入る前に、和声習得における流れをおさらいしておきましょう。
この流れは、とても重要です。

  1. まず自宅で課題を写し、机の上でピアノを使わずに実施します。(各声部が乱雑にならず流麗になるよう注意します。特にバス課題ではソプラノが、ソプラノ課題ではバスが何らかの意思・意図・デザインを持った美しい動きをするよう模索します)
  2. 次にピアノで弾いて、確認します。(この時点で「こう直したい」などと気づくことも多いので、さらに手を加えます)
  3. それをレッスンに持っていき、禁則などをチェックしてもらいます。「など」と書いたのは、禁則だけでなく、和音設定や調設定、配置・配分、各声部の音運びなどをアドバイスしてもらうことで、より深い和声のお作法的な部分を教えてもらいます。
  4. また、厳格様式や主題的構成を持つ課題では、ABが適切に組み合わせれているかや、階梯導入やカノンが適切に行われているかもチェックしてもらいます。
  5. そして自宅に戻り、チェック箇所を修正し、ピアノで弾いて指と耳で和声を定着(頭に染み込ませる)させます。

以上が、和声習得の基本です。

さて、では本題に入ります。

現在、日本で入手できる和声テキストは、洋書を含めると決して少なくありません。
しかし、その分、テキストの趣旨はさまざまで、範例の載せ方や実施の方法は、各テキストで大きく異なります。

以下は、当教室でよく使用するテキストの課題と範例の一覧です。

『和声 理論と実習』全3巻 島岡譲他著(音楽之友社)範例集は別冊。4声揃った大譜表。所々に解説あり。
『新しい和声』林達也著(アルテスパブリッシング)範例集は巻末に収録。4声揃った大譜表。解説なし。
『380のバス課題およびソプラノ課題』H.シャラン著(Leduc)範例というより実施の手がかりが別冊であります。それには外声と数字が主に記載されています。
『50の和声課題』および『40の和声課題』P.フォーシェ著(Salabert)範例は別冊。4声揃った連合譜。解説なし。
『300の課題とレアリザシオン』J.C.レイノー著(Zurfluh)範例は別冊。4声揃った連合譜。スタイル和声に重点が置かれています。解説なし。

さて、ここで重要なのは、当たり前ですが、いずれも「範例」であるという点です。
つまり、非常に洗練された実施例ではあるものの、範例は範例であり、唯一無二の「解答」ではないということです。

2022年11月現在、私のレッスンでは(特に受験生では)、まずはじめに『和声 理論と実習』全3巻を使うことが多いのですが、「範例集は買わないでね!」といつも伝えています。
理由は、万一、実施前に範例を見てしまうと学習効果が著しく下がってしまうことと、そして何より前述した通り範例はあくまで範例であって、繰り返しますが「解答」ではないからです。

逆に言うと、範例よりも優れた実施はいくらでもあり得ますし、本来はそれを目指して勉強するべきとも思っています。(矢代先生の和声集成Ⅲなどはそのお手本を示しています)

とはいえ、シャラン、フォーシェ、レイノーなどの洋書のテキストになると、テキストの方に解説がないため、まったく思いもよらない実施が求められていることがあり、的外れな実施をしてしまうことが間々起こります。

そこで、シャランに関しては、次の二つのどちらかの方式で進めます。

【A方式】

  1. はじめはテキストの課題のみで自力で実施する
  2. 次に範例(レアリザシオン)の「実施の手がかり」を見て、外声を写して実施する

【B方式】

  1. 最初から範例(レアリザシオン)の「実施の手がかり」を見ながら実施する
  2. カデンツの分析をする

A方式はとても時間がかかりますが、着実に力がつきます。B方式でも、きちんと分析していけば、ある程度は力がつきます。

どちらの方式でも、レッスンでは「2.」を見させていただき、モチーフ分析や和声分析(カデンツ構造・転調法)、あるいは反復進行法、構成(楽式)などを解説しています。

フォーシェとレイノーに関しては、範例を見ると、ただの丸写しになってしまうので、基本的に範例は見ずに実施します。コツは課題をよく見て分析すること。もうひとつは作曲するときの思考回路と同様の思考回路を使って実施することです。そして実施し終わったら範例を見て驚きます。その後、範例を写譜します。(この「驚く」というところが上達のポイントだと私は思っています)

和声学習にあまり時間が取れない方の場合は、フォーシェとレイノーは最初から写譜します。書道に「臨書」という学び方がありますが、あれに近い方法で学んでいくのも、時間が限られている方の場合は、私は一つの方法だと思っています。

最後になりますが、和声習得では、良い範例をピアノでたくさん弾くことが重要です。指と耳で和声の慣用句のようなものを覚えるためです。
したがって、実施用の課題として使う予定のないテキストの範例を弾くことをお勧めします。上記5つのテキスト以外では、たとえば、T.デュボアの実施編も良いですし、島岡先生の和声課題作品集や、A.シャピュイの範例など、とても美しく良いです。

範例の使い方は、難しいところですが、私の現在の考えをまとめてみました。
和声にご興味のある方は、ぜひ、私どもの教室まで。(宮川慎一郎)

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