かわいいハリネズミ(分析とピアノ奏法)・カバレフスキー 35のやさしい小曲集こどもの冒険
今回のテーマはカバレフスキー作曲『35のやさしい小曲集こどもの冒険』より、第8曲目「かわいいハリネズミ」です。
幼児が弾くことの多いこの曲ですが、実に無駄なく、整然と作られています。
カバレフスキー晩年の、68歳の作品ですが、鋭い生命力が感じられます。
分析に関して
まずは作品の概要から。本作は、
A[4]-B[4]-B’[4]
の2部形式で、合計12小節([ ]内は小節数)。
C dur、2/4拍子、Allegretto staccatissimoの動きが音楽に躍動感を与えています。
書法の面では、カバレフスキーが学生時代に師事したスクリアビンなどの影響は影を潜め、ロシアの叙情を明るく明朗に描いた作品となっています。
さて、この作品は、冒頭の2小節にすべての要素が詰まっています。
第1小節目、1拍目右手の前部音「ド」と左手の「シ」は半音でぶつかるように書かれています。次に2度でぶつかるのは第2小節目の同箇所「レ」と「ド」です。その他は、3度の複音程と6度で協和的に響いています。
これらの場所で、注意したいのは、第1小節目と第2小節目の和音設定です。
構成音を書き出すと容易に分かりますが、第1小節目は「ドミソシ」という7の和音で構成されています。一方、第2小節目は「レファラド」というこれも7の和音で構成されています。
つまり、3度体積和音(7の和音)の基本形の最高音と最低音を、最も重要な1拍目前部音でスタッカートでぶつける事で、極めて引き締まった効果を出しているのです。
3小節目以降の書法は全く同じです。
参考までに1小節ごとの和音記号を記します。
A
bar 1= Ⅰ7
bar 2= Ⅱ7
bar 3= Ⅶ7
bar 4= Ⅰ7
B
bar 5= Ⅱ7
bar 6= Ⅰ7
bar 7= Ⅶ7
bar 8= Ⅰ7
B’
bar 9= Ⅱ7
bar 10=Ⅰ7
bar 11=Ⅶ7
bar 12=Ⅰ7
ご覧のようにBとB’はまったく同じ和声構造になっています。
したがって、形式上もAを第一部、BとB’を第二部と分析しました。(もしかしたら別の分析もあるかもしれません)
演奏に関して
本作品は、各和音の構成音が同等に使われている以上、右手がメロディといったようなことは無いかと思われます。
なおさら、2度のぶつかり合いを楽しむ曲ですので両手とも同じバランスで発音することが大切です。
スタッカートから練習すると音が荒くなりやすいので、レガートから練習するのも一つの方法でしょうか。
そして、最終的にスタッカートに戻ってきたら湿り気を帯びず、カラッとした音色が出せると良いですね。
また、この曲に4箇所ある8分休符に注意してください。緊張感を持った休符ですので、緩むことなく直後の音楽に備えてください。
9小節目からのpは困難ですが、遅いテンポから練習してみてください。そして最終小節のアクセント・スタッカート(f)は乱雑にならないように気をつけてください。
この曲の最大の特徴は、2度のぶつかりですが、各小節の1拍目前部音でしかぶつかりません。
そのため、その他の音は、協和音程がもたらす広がりを意識できたら、ワンステップ上の演奏ができることでしょう。