シューマン作曲『予言の鳥』(楽曲分析)

本作は、シューマンのピアノ曲でも比較的有名な曲ですが、この一番の特徴は、なんといっても「い音」です。

「い音」とは、簡単にいうと、骨格になる和音の直前にくっ付いた、不協和な音のことです。

これが、冒頭のモティーフに含まれていることから、作品全体が不協和で、不気味な印象を持っています。

しかし、そのい音に対して、協和する和音を付随させている部分もあり(これを偶成和音などと言いいます)、これは作曲技法上ユニークな点です。

形式の面では、この曲は3部形式といって、A-B-Aという形をとっています。

ト短調に始まるAは、へ長調ハ短調と経由して、ト短調に戻ってきます。これらの調の推移は五度圏によっているため、自然な転調に聞こえてきます。

Bは、バス声部に保続音を含むコラール風で、ト短調の同主調であるト長調から入ります。つまりパッと明るくなり、不気味さは払拭されて穏やかになります。

これが終わり2小節で長3度下の変ホ長調に移調するのですが、ここでは強弱を直前より一つ落とし、ppにしています。そして「より遅く」、「弱音ペダルを踏んで」という指示も付され、非常に甘美に作られています。(一般的に長3度下への転調は穏やかさを増します)

さて、ピアノ演奏をする上で、この曲にはいくつかの疑問があると思います。

  • ペダル処理をどうするか?
  • スラーが付いたスタッカートをどう弾くか?
  • <>のアクセントはどういう音色を出すか?

などです。

これらの中で気になるのは、fp(フォルテピアノ)という指示が随所に見られることです。

これが付された箇所だけをf(フォルテ)にして、直後からp(ピアノ)にするというのは不自然なので、私はこれを>(アクセント)の一種だと思っていますが、皆さん、どう思われますか?

いずれにせよ、解釈そのものにも関心がわく作品で、シューマンがピアノに様々な音色を求めていたことがうかがわれます。

シューマンはメロディメーカーとしても優れた才を持っていたため、今日でもトロイメライなど有名な作品は多々あります。

しかし、基本的に、シューマンのピアノ曲は、同時代のショパンやリストに比べてかなり地味です。また、モーツァルトやベートーヴェンほど重要な作品群があるわけでもありません。

それに加え、シューマンは独特の主観的表現を求めてくることから、シューマンを積極的に弾くピアニストは決して多いとは言えません。

しかし、彼のピアノ曲は、彼自身の非常に特異的な内面性を表しているように感じます。

つまり、共感する人は、かなり共感するというタイプの作曲家ではないでしょうか。

(宮川慎一郎)