エリーゼのために(分析)
エリーゼのために
この曲はベートーヴェン(Ludwig van Beethoven,1770-1827)がウィーン時代中期の1810年に作曲したピアノ曲です。とても有名なので、弾いてみたいと思われる方は多いのではないでしょうか。
作品は3/8拍子、イ短調、A-B-A-C-Aのロンド形式になっています。
さて、この曲のモティーフを見てみましょう。小節でいうと1小節目アウフタクト〜2小節目2拍目の頭までです。
このモティーフ、前半は属音とそれに絡みつく刺繍音、後半は大きく広がる分散和音で構成されています。ここには集中と拡散というベートーヴェンらしい相反する二つの分子が潜んでいます。Aの部分はおおむねこのモティーフで通されます。
ではマクロに目を移してみましょう。Bの部分には歌のように穏やかなメロディが現れます。これはAに対して長3度下の長調で書かれているので、自然に柔らかい響きになります。
一方、Cの部分では、強く厳しいメロディが保続音上に乗せられますが、実はこれはBのメロディの一つ一つの音を入れ替えて作られています。いわゆるアナグラムです。
つまりこの曲は、主題となっているAと、アナグラムによるメロディ(BおよびC)が交互に表されるロンドになっているようです。
Cのメロディは、一見、アナグラムのように聞こえませんね。つまり頭の中で考えて作ったメロディに聞こえません。
それが作曲のミソなのです。
(宮川慎一郎)