子犬のワルツの謎

子犬のワルツの謎

ショパン(Fryderyk Franciszek Chopin, 1810-1849)のワルツOp.64の一曲目は、子犬のワルツとしてとても有名な作品です。

3/4拍子、変ニ長調、複合三部形式。ピアノを習い始めた方が一度は弾いてみたいと思う憧れの曲で、明朗さと愛くるしさが特徴です。

この曲の冒頭には不思議な浮遊感があります。これはの音を中心にした二重刺繍音の連続によるもので、子犬が自分の尻尾を追いかけて動き回る様子をよく表しています。

この連続した刺繍音の2回目、小節でいうと第2小節目に実はイレギュラーな刺繍音が出てきます。他の刺繍は()ソドシソですが、ここだけはソドシなのです。この形は再現部にもなく、この曲でたった一度しか登場しません。

ショパンはなぜこのようなイレギュラーなものを冒頭に入れたのか、これは小さな箇所の大きな謎です。

この謎、一つには再現部と形を変えたかったことが考えられます。再現部では通常、主題を変奏して繰り返す方法がとられるからです。ただ、それだけの理由にしてはイレギュラーがイレギュラーな場所にあります。

そこで考えられるもう一つの意図は、いわゆる目くらませの効果です。まったく同じ形を連続して繰り返すと聴き手はパターン認識して安心してしまいますが、一瞬イレギュラーなものが入ることで注意が向くため、そういった効果を狙ったことも考えられます。

(宮川慎一郎)