ドビュッシー作曲・アラベスク第1番(分析とピアノ奏法)

今日のテーマは、ドビュッシー作曲・ピアノのための『2つのアラベスク』です。
詳細に見ていきたいと思いますので、第1番の「アラベスク」に絞ってお話をしていきます。
本作は非常に有名ですので、ピアノレッスンをなさっている方なら、一度は弾いてみたいと思ったことのある曲ではないでしょうか?

また、ピアノ教室などで、音高受験や音大受験を考えている方なら、小学校中学年~高学年くらいで、一度は弾いたことがある生徒さんもいると思います。

今回は、前回に引き続き「アラベスク」をテーマにしました。(前回はブルクミュラーのアラベスクでした)

ドビュッシーとブルクミュラーのアラベスクでは、作曲年代・地域はもちろん、作曲趣旨も作風もまったく異なります。
しかし意外な共通点があります。
それは後ほど解説します。

  • 演奏から聞こえる作曲技法

<スタニスラフ・ブーニンの演奏>
https://youtu.be/GStfo_f4L0g
(YouTubeより)

ブーニンの演奏も神がかっているのですが、
それは一先ず横におき、作品そのものについて。

冒頭の1ページを聞いただけで、
この音楽が絶え間ない情報発信力を持ち、
豊かな情感にあふれ、
イノセントな感傷的描写が描かれていることが分かります。
ドビュッシーが本作を作曲するにあたり、いかに多くの音楽的インスピレーションを得ていたかが、お分かりになると思います。

ところで、作曲家の仕事というものは、基本的にインスピレーションを具体化することです。
つまり、ふと思いついた音楽的インスピレーションを、五線紙に音符として定着することが仕事なのです。その過程で、作曲家は、適切な音を探すのに苦労したり、なんらかの秩序が見つけられないか思案を重ねます。

しかし、ドビュッシーのアラベスクには、そういった苦労の痕跡が、私にはあまり感じられません。
まるで音が自ら整列して、秩序を作り出しているように聞こえます。
それほど、各音が自己生命力を持ち、音楽構造の中にハマっている。

若干26歳のドビュッシー。
本作が作曲されたこの時期に、すでに彼の才能の鱗片が見られます。

とはいえ、ドビュッシーは、本作を含め、当時の作風を生涯貫くことはありませんでした。
ドビュッシーは30歳を目前に、まったく新しい音楽の創作に取り組み始めます。
後世、私たちは、この時期をドビュッシーの中期作品群の始まりと呼んでいます。

  • アラベスクの分析とピアノ奏法

さて、「アラベスク」の

分析とピアノ奏法の解説に入ります。
まずは作品の概略から。本作は3部形式。

A[38]-B[32]-A[35]コーダ[13]

合計118小節。([  ]内は小説数)
4/4拍子、Andante con motoの動きが、音楽の主体になっています。

本作は、明確な再現部A[35]を持ち、書法の点では、サン=サーンスやフォーレの影響が強く見られます。
特に和声面ではフォーレの影が色濃く出ていますね。
そういった意味で、ドビュッシーの作品群の中では古典的かつ習作にあたるものです。

1部(139小節目)

E Durで表された分散和音(アルペジオ)は、6の和音形態で、弱進行による和声的推移をします。

メロディらしきものが出てきた3小節目から属和音への準備を始め、5小節目で属和音(ドミナント)を置きます。
そして、6小節目で主調である、E Durが明確に表されます。演奏上はこの文脈をしっかりと捉えることが重要です。また、アルペジオの音色設定も非常に重要になります。

この一連の部分だけでも美しいと感じるのは、和音が6の和音形態(第1転回形)を取っていることと、それが弱進行する点にあります。
そして、間を置いて現れる、E Dur到達への安定感。

これらが、この作品のはじめ10秒の魅力になっているように思います。

17小節目からは、第1部に付したソプラノ音が特徴的です。
これはやがてリズム上細分化され、重要な旋律線を取っていくことになることから、ある種の伏線と言えるでしょう。
したがって、演奏上も、このソプラノから開始された一連の動きを注意深く聞き取ることが大切です。

26小節目からは、音楽はやや静的になります。
ここは34小節目から4小節間に渡ってcresc./dim.を行なっていますので、演奏上、計画的な音楽作りが必要です。
37小節目の最高音をあえてpで記しているのは、当時の流行もありますが、ドビュッシー特有のナイーブな表現といってよいでしょう。
ピアノ演奏でも、ここはデリケートな音色がぜひ欲しいところです。(ちなみにブーニンの演奏は、pp部分では上半身の態勢を低く取って、指の腹の柔らかい部分を使っているように見えます。あるいは単に音楽的な自然な動きにも見えます)

2部(39小節目のTempo rubato69小節目)

2部はA Durに転調します。
しかし、Ⅱ度から導入されるため、調性感は46小節目まではっきりとしません。
仮に、ここで用いられる旋律モティーフをXとしましょう。

その後、Mossoで気分を変え、2度繰り返す間にfまで高めていきます。
その直後、a Tempoかつpで、再びYが表されますが、この時のYに対する背景和音は大幅に変化しています。
この背景和音が変わることで、前掲のXのあり方も当然変化してきますので、ここも演奏上の一つのポイントになります。

そのほか作曲上、興味深いのは、第2部の第1セクションが16小節あるのに対し、第2セクションは15小節しかない点です。
ここで推測されることは、ドビュッシーは作曲法上、小節時間(時計的な時間経過)で音楽を認識していないということです。
つまり、「音の流れに任せていって、作曲していった」、という方法論を取っている可能性が高いということです。
(少なくとも初期のドビュッシーには、こういった傾向が顕著に見られるように思います)

再現部(70小節目のTempo 103小節目)

70小節目の再現部、この直前に、Xの断片が置かれます。
Xを用いたストレッタ(ある地点に向けて切迫していく書法)によってフレーズを作り、再現への期待を膨らませます。(ただし、ロマン派のようにストレッタにcresc.は伴いません)

この部分も、ソプラノに付した二分音符が特徴的です。
これもやがてリズム上細分化され、重要な旋律線を取っていくことになります。

96小節目からは、再現部冒頭の反復が行われます。
ただし、70小節目(再現部冒頭)で表された時よりも8小節少ない。
これはコーダを付すことを見越して計画されたものですが、明らかに、古典派~ロマン派のコーダの概念(執拗さ)に対するアンチテーゼです。

コーダ(104118小節目)

104小節目からは、Coda(コーダ)と見ることができます。
コーダの1小節前には、本作で唯一の拍子変化が起こります。つまりそれまで4/4拍子だったものが、その小節だけ2/4拍子になります。
この変化は、再現部とコーダをつなぐ部分として、重要な区切りを付けています。

演奏上、この2拍子の弾き方は大変困難です。
しかし、基本的なこと、つまり強拍と弱拍を意識し、次へのフレーズへの準備と捉えれば効果的な表現ができるはずです。
よくある失敗例としては、2拍子をテンポより速く弾いてしまう生徒さんがいますが、ここはむしろやや長めの間を取ったほうが良いでしょう。
コーダは、たった13小節間ですが、徐々に音域を上げていき、ppまで持っていきます。
このあたりも見事ですね。

  • ドビュッシーとブルクミュラー、アラベスクの意外な共通点

さて、一番最初にお話しした、ドビュッシーとブルクミュラーのアラベスクの共通点。
これは何だと思いますか?

ズバリ、「ポピュラリティ」です。

19世紀の音楽史では、誰にでも広く好まれるピアノ小品を、性格的小品と呼び、標題音楽の一つとしていました。バラード、ロマンス、ラプソディ、バガテルなども、その一種です。
そして、それらは、ソナタや練習曲、変奏曲、舞曲などより、ムードを重視した音楽として考えられていたのです。

現代の音楽学の研究では、「アラベスク」の定義は、イスラム圏の唐草模様と、その華麗さを想起する装飾的かつ急速な音楽とされています。
しかし、ドビュッシーやブルクミュラーの「アラベスク」≒「ポピュラリティ」と聞いて、納得なさった方も多いのではないかと思います。

今日は、ドビュッシーの「アラベスク」(第1番)の楽曲分析と、ピアノ演奏法についてお話をしました。
これから習い事でピアノを始めようといった方も、どうぞご参考になさってください。(宮川慎一郎)

体験レッスンお申し込み

「教室や先生の人柄をよく知ってから入室したい!」
それが多くの生徒さんの本音です。

そこで、美ゞ(びび)音楽教室では、2回の体験レッスン(お話などを含めると合計2時間近く)を行っています。

習い事は相性です。
相性の良い先生に巡り合っていただくための時間を、私たちは、惜しみません!

※体験レッスンでは2回で5,000円を頂戴しております。