作曲科受験をする際の模範的ソナタ形式は本当に存在するか?
今日のテーマは音大や藝大の作曲科を目指して作曲レッスンをしている方々へのアドバイスです。
本コラムのタイトル「作曲科受験をする際の模範的ソナタ形式は本当に存在するか?」
結論から言うと、ある程度は存在します。
しかし、「ソナタ形式の模範的作品は存在するか?」と問われると、答えは否です。
詳しく説明します。
ソナタ形式は、バロックの舞曲形式にその原型が見られ、前古典派で発展し、ハイドン、モーツァルトを経て、ベートーヴェンが完成させたと言われています。その後、シューマンやシューベルト、さらにブラームス、チャイコフスキー、そしてドビュッシーやラヴェル、仕舞いには20世紀のブーレーズまでもがソナタ形式の影響を受けています。
ご覧のように、ここに挙げた作曲家だけでも大勢いますね。そして時代や様式も違う中、各作曲家は多種多様な「独自の」ソナタ形式を模索してきました。
したがって、「ソナタ形式の模範的作品は存在するか?」と問われると、やはり存在しないとしか言いようがないのです。
つまり、作曲科受験の作曲試験(受験作曲)の見本になるようなソナタ形式は、どこにもありません。
ただし、受験作曲では、ある程度の型に落とし込めば、だいたいどこの大学でも土俵に上がって他の受験生と競い合うことができます。
私が経験上、「土俵はこれくらいかな」と思っている型を以下に列挙します。
- 提示部、展開部、再現部の3セクションの構成を持っている
- 提示部の第一主題は主調で、第二主題は近親調で作られている
- 各推移部が巧妙に作られている(特に転調法)
- 展開部は主題の最も重要な一部を切り取って、様々な調、和音の中で表され、さらに創意に溢れ、自由闊達に表されている(作曲科の試験官はここの部分の完成度を一番よく見ます)
- 再現部が主調で表されている
- コーダを含んでいる
- 試験官を「お〜!」と思わせる仕掛けや箇所が一箇所でも良いので存在している(ただし気を衒ってはダメです)
付け使えると、和声的にはブラームス様式、編成的には弦楽四重奏や移調楽器を含む編成、テクスチャ的には後期ロマン派を踏襲しつつもやや印象派のエッセンスが入っている、試験時間内の時間配分が上手く完成度にムラがない、これくらい書けると、日本の音大・藝大なら十分に土俵に上がることができます。
私たちの美ゞ(びび)音楽教室の講師は、作曲科受験のレッスンでは、前述の「土俵はこれくらいかな」というラインを意識してレッスンしています。
音大や藝大の作曲科受験(音大受験コース)にご興味のある方は、お気軽にお問い合わせ下さい。(2023年6月4日・宮川慎一郎)