R.シューマン作曲「Warum?」の秘密(分析と演奏解釈)
R.シューマンのFantasiestücke(幻想小曲集)Op.12に「Warum?」という曲があります。
Fantasiestückeは全8曲のピアノ曲。その3番目が「Warum?」です。
Warum?は、英語でいうWhy?のことで、つまり「なぜ?」の意です。
作曲は1837年。ロマン派が萌芽し始めた時代です。
今日はこの曲について分析・演奏解釈をしていきたいと思います。
【全曲の楽譜】
まずは曲の概要から。
Des dur
2/4拍子
具体的なテンポ指示はなく、Langsam und zart(遅く、そして優しく)と記されています。
zartには「優しく柔らかい」という意味もありますが、文脈によって「壊れやすい」とか「傷みやすい」といった意味合いもあります。
シューマンらしい言葉選びです。
曲の形式は次の通り。
●A-(B-A)-(B-A)
再現部を持つ変則的な3部形式です。
※カッコでくくった部分は、反復する部分。
各小節数は、
●16-(14-12)-(14-12)
となっています。
比で考えると、
●8:(7:6):(7:6)
という比率です。
8と7は互いに素、7と6も互いに素である関係にあります。(共通の約数が1しかない場合、それを「互いに素」といいます)
シューマンが作曲する際に、これを考えたかは分かりませんが、小節数の比に秩序を求める作曲家は稀ではありません。
前述の部分を以下のように捉えることも可能です。
主題部-(発展部-再現部)-(発展部-再現部)
このように書き換えると、音楽の内容が分かりやすくなりますね。
曲は、
1)冒頭3小節のメロディ
2)冒頭1小節のメロディのモティーフ
が主となって構成されています。
特に、2)のモティーフの方は、
【ピッチモティーフ】
【リズムモティーフ】
の二つに分解され、曲全体で使い回されています。
つまり伝統的なモティーフ労作が見られます。
モティーフは、ソプラノ、アルト、バスの各音域で繰り返され、時に重なり合い、その様子はまるで対話のように聴こえます。
さて、ここからは、深掘りしましょう。
この冒頭の3小節のメロディ、再度、書き出したいと思います。
仮に古典派の作曲家なら、上記のメロディに次のような和声を付けたかもしれません。
しかし、そこはシューマン。
下の譜例ようにドッペルドミナントからスタートさせているんですね。これは特徴的で意外なスタートです。
そしてようやく3小節のになって、この曲の主和音が表されます。
このようにシューマンは和声上でも凝った作り方をしています。
したがって演奏解釈としては、属7和音の連続から、ようやく3小節で主和音が表される安定感を出すと良いでしょう。
つまり属7和音からの緊張と、主和音である長3度への弛緩の関係です。
また、各音域でモティーフが繰り返されることについては、モティーフのゆくえを常に追い、その都度表されるさまざまな和音(伴奏形)と噛み合わせることが大切です。
では、作曲法上の特徴はどうでしょうか?
モティーフが各声部で繰り返されることはお伝えしましたが、ではその絡み合いにどんな意図があるのでしょうか?
そして、この曲は、どうしてWarum?(なぜ?)というタイトルになったのでしょう?
これぞ、この曲の「秘密」です。
続きは有料版として、当教室の作曲・和声のレッスンでお話したいと思います。
宮川慎一郎