亜麻色の髪の乙女(分析)

亜麻色の髪の乙女(分析)

ドビュッシーの晩年、1910年の曲です。前奏曲集第1巻に収録され、他の曲より取りかかりやすいため、ひときわ知名度が高い曲です。

再現部をもつA-B-Aの三部形式になっていますが、その中身は変則的です。3/4拍子、Ges dur、冒頭には「とても静かに、柔らかく、表現力をもって」と書かれています。(ちなみにドビュッシーは音楽用語の他に、楽譜のいたるところに文章を書く癖がありました)

冒頭のテーマはソロ。3度堆積された4音からなり、これを上から下に、下から上に繰り返す一本の曲線を描きます。

ここにはpと書かれ、その隣にはsans rigueur=あまり厳格になりすぎずに、と書かれています。おそらくドビュッシーは、この降りたり登ったりする音型に、ある程度の揺れを持たせたかったのだと思います。

この一本の線は、2小節目の終わりで和音を伴い変終止をします。

3小節目の頭がトニックになるのですが、ここの旋律、ソ-ファ-ミ-レという順次進行は今後の展開の大きな鍵となり、様々な声部で表されます。

曲は19小節目から3フレーズのアナクルーズを経て、21小節目の3拍目(ミの音)でアクセント(クライマックス)、そしてデジナンス。

その後、テーマの変形が経過的に表され、Ces音の保続音の上で再現部を迎えます。

この曲で興味深いのは、クライマックスを3拍目(弱拍)にもってきていること。アナクルーズを1拍延長して、次の小節の1拍目(強拍)にアクセント(山場)をもってくることもできたはずですが、あえてそうしなかった。これはクライマックスをアップビートに置くことで次の動きのアウフタクトにしたかったからだと思われます。

本作、調号は多いですが、難しい指の動きはありませんので、初級者〜中級者なら十分に取り組める曲でので、ぜひチャレンジしてみてください。

 

余談になりますが、岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』、この映画の中で津田詩織(蒼井優)が、援助交際で受け取った金の穢れと遣る瀬なさに、川に駆け込むシーンがあります。

ここで使われる音楽も、この亜麻色の髪の乙女で、そのシーンを痛々しいほど引き立てています。

(宮川慎一郎)