集中力が続かない生徒(幼児さん)のお話

1年ほど前、この教室にピアノとソルフェージュを習いに、年長さんの女の子がやってきました。
(※プライバシーの観点から、実際の生徒さんとは若干異なる人物設定をしています)

当初、彼女のレッスンでは、落ち着きのなさが目立ちました。集中力が持続しないのです。
親御さんは発達の偏りを心配しているようでしたが、年相応の受け答えができ、知能にも問題なく、発達障害ならではの特徴もあまり感じられませんでした(幼稚園でも、そのような指摘を受けたことがないそうです)。

それにもかかわらず、宿題にしていたピアノ曲を一度弾き終わり、リズムを「たん・てぃてぃ・たん・(うん)」と歌い、「ど〜れ〜み〜(うん)・み〜れ〜ど〜(うん)」を歌い終えると、すぐに教室のおもちゃ楽器コーナーに行き、とても楽しそうにマラカスやウッドブロックを鳴らします。
一旦そうなってしまうと、私の話をまったく聞かず、それ以上のレッスンは成立しませんでした。

本当のところ、彼女は先生を「困らせる生徒」でした。しかし、多くの幼児教育者が言うように、「困らせる生徒」は「困っている生徒」なのです。
その彼女の困っていること、ピアノか、ソルフェージュか、先生との接し方か、それを見極め、手助けしたいと思いました。

半年ほど経ったでしょうか、レッスンを続けていく中で、私は大切なことに気づきました。
それは、少なくとも彼女は「レッスン室から外には出ていかない」ということです。
つまり、レッスン室の中にはいたい。ということは、彼女なりの方法で、レッスンを受けたいのだと解釈しました。

このことに気づいてからは、「レッスン中は必ずピアノ椅子に座っていなければならない」とか、「歌い終わったら先生のアドバイスを聞かなくてはならない」などの、ある種の固定観念を、ひとまず棚上げにしました。
レッスン室にさえいてくれて、楽しんでもらえるなら、それでいいのかなぁと。
おもちゃの楽器で先生と遊ぶのも、立派なレッスンではないか、と。

幼児のレッスンで一番気をつけているのは、生徒の自主性です。
たとえば、レッスンを始めた途端、生徒が別のことに気を取られて、中断してしまった場合などは、「今は、なんの時間かな?」などと発問し、生徒自身に気づかせるようにしています。
彼女が「この嫌な時間はいつまで続くの?」と困らないように、「今日することリスト」も紙で毎回作りました。

そして、レッスン前後のご挨拶(礼節)や、生徒本人の怪我や命につながること以外は、厳しくせず(彼女を困らせず)、私は「レッスンとはこうあるべき!」という考えに拘泥しないように気をつけました。

さらにレッスン中、最低でも一度は「生徒との笑顔のやりとり」を交え、レッスンの終わりには「教室に来て楽しかったな」という思いを一つでも持って帰ってもらうことを目標にしました。

幼児のレッスンでは(それはピアノでもソルフェージュでも)、留意することが多くありますが、もう一つ、大切なことを挙げるなら、「待つことの大切さ」です。

音楽を教える立場になると、ついつい、正しい音・良い音を求め続けさせ、テキストをハイペースで終わらせ、次の段階に早くステップアップしたいという気持ちが働きます。これも一つの方法で、熱心で優秀な先生ほど、そうお考えになると思います。

しかし、幼児や子供は、大人が予期しないところで、急に成長することがあります。そして、その成長の仕方は、やがて彼らの個性になっていきます。
したがって、先生が焦るのではなく、ゆっくり待ち、生徒の成長を見守ることが何よりも大切だと私は思います。(受験生などのレッスンでは真逆の指導をするのですが、、、笑)

幼少期のレッスンは、一にも二にも、継続と根気です。また仮に、ピアノやソルフェージュが順調に上達しなかったとしても、音楽そのものに向いていないということは決してありません(音楽家の中には、幼少期は手先が不器用で、ピアノが苦手だった、歌が嫌いだったという方も多いです)。

生徒の中に未だ隠されている「光るもの」を探し、生徒の才能を信じて続けることが何より大切だと私は思っています。

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