感覚だけで作曲する生徒さんのお話

その生徒さんは、音大のピアノ科出身の方でした。作曲関連の音楽理論には精通していないものの、自作曲を作ってみたいという希望をもって、私のレッスンを受けにやってきました。

(※プライバシーの観点から、実際の生徒さんとは若干異なる人物設定をしています)

その生徒さんは、作曲に関してはまったくの初心者で、ほとんど感覚のみで作曲をしていました。楽譜の書き方も、まったく慣れていない様子でした。

しかし、彼の曲には、詩情があり、またストーリー性があり、聴いていて面白味のあるものでした。ポップス風でもなく、かといってクラシックの定石通りでもないけれど、人を引き込む魅力がありました。

さらに、和声などクラシックのエクリチュールを学んでしまっては、まず発想できないような和音・和音進行や展開があり、とてもユニークなものでした。

そのため、私は当初、彼には和声などは不要と考えていました。
和声や楽式を学ぶことは、彼にとっては、かえってマイナスになってしまうと思われたからです。

しかし、10曲くらい制作したところで、彼は大きな壁に突き当たりました。一言で言ってしまえば、感覚に頼りすぎたことによる、音楽の枯渇です。つまりネタ切れ。

たしかに、彼のような場合は、数曲は作曲できるものの、その後、突如として行き詰まりを見せることも多いです。
かといって、和声をすることにも(それがたとえ島岡和声だとしてもシャランだとしても)、私は疑問を持ちました。

和声は習得までに年単位で時間がかかることも疑問を持った一因ですが、なにより彼の音楽と和声学の相性が水と油のように混ざらず、乳化しない(醸成されない)ように思われたからです。

一般に、作曲において基礎・基盤(和声など)を習得していないゆえの自由は、不自由であるということと表裏一体です。それは彼の音楽にも明らかに観察されましたので、さて、どうしたものか、と。

そこで辿り着いたのが、既存の楽曲の分析でした。

といっても、クラシック的・和声学的に分析をするのではなく、コードを用い和音を理解し、そして形式分析だけをすることを勧めました。

その後、しばらくは時間がかかりましたが、既存の楽曲構造を知ることで、それを踏襲・模倣することも、改革・創造することもできるようになりました。

そして、やはりクラシックをもっと学びたいという希望を受け、今は、回り回って和声を勉強しています。

彼の作曲は、既存作品の分析と、和声の習得により、さらに美しいものになると信じています。

(2022.4.11宮川慎一郎)

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