和声・対位法・コードと伴奏付け(DTMの前に知っておきたいこと)

今日は和声(クラシックの和声法)の話、それから繋がる対位法の話、そしてコード理論と伴奏付けまで取り上げます。
これからDTMでの作曲を始める方にも、ぜひ知っておいて頂きたい内容です。

クラシックの対位法はもちろんのこと、コード理論(ポピュラー音楽理論)や、ポップス風のメロディに伴奏を付けるテクニックには、ある程度クラシックの技法が不可欠です。
そこで、まずはクラシックの和声から解説をスタートしましょう。

和声の教科書として有名な『和声ー理論と実習ー』(島岡譲ほか著・音楽之友社・全3巻)は、学習単元が細かく分けられており、解説や譜例も充実しているため、当教室では標準テキストにしています。

この教科書の第1巻では、3和音(トライアド)、属7(ドミナント7th)、属9(9th)を取り上げ、主にトニックとドミナントの学習をします。
「Ⅰ→Ⅴ→Ⅰ」や「Ⅰ→Ⅴ→Ⅵ」などの連結が代表的例で、それらを中心にⅡやⅣも適宜学びます。
したがって、和音の種類は多くなく、基本的規則や禁則を学ぶため、生徒は「なんでこんな事やらなきゃならないんだろう」と困惑する場面もあります。

和声とは、クラシックの和音や連結を学ぶことで、クラシックを理解する手立てになることはもとより、20世紀にクラシックから派生したポピュラー音楽にも通じています。

では和声の第2巻に話を移しましょう。2巻では、主にサブドミナントとソプラノ課題を学習します。
サブドミナントによって和音の種類が広がりますので、ここら辺から楽しくなる方も多いようです。またソプラノ課題(単純なメロディに和音を付ける学習)も始まります。これはメロディありきなので、和音を探すのが楽しくなります。

最後の第3巻は学習単元が多く、それぞれが濃いです。
はじめは転調に関して学習しますが、それ以降は、
・非和声音を含む自由ソプラノ(メロディ)課題
・反復進行
・偶成和音
・厳格様式(簡単に言うとバッハ風の課題)
・モチーフを持った課題
・対位法への橋渡し
と多岐にわたっています。

しかし、第3巻の内容は非常に実用的でもあります。
ソプラノ課題では、実作品にあるようなメロディに対し、それに合う和音探しになりますし、反復進行(ゼクエンツ=同じ音型の繰り返し)はクラシック・ポピュラー問わずとても実用的です。さらに偶成和音では、ここまで積み重ねてきたカデンツ(トニック・サブドミナント・ドミナント)の原則から和声進行を解放させるため、たとえば、期待感を抱かせる和声進行や、不安をかき立てる進行など、感情に訴えるさまざまな和声表現を学べます。

一方、シャランなどのフランスの和声テキストは、内容も単元構成も少し違います。
内容的には、比較的はじめの段階からモチーフを持った課題や、反復進行を備えた課題があります。また様式も課題ごとに微妙に異なっており、ロマン派風のものもあれば、フォーレ風のものもあります。そのため、課題を実施するというよりは、一つの作品を作り上げるという感じで、非常に流麗な響きを習得できます。

単元構成としては、3和音、属7和音、属7以外の4和音、属9和音など、『和声ー理論と実習ー』に共通する部分がある一方、その先は経過音や倚音など非和声音ごとに学習単元が分かれています。ただし、一部のフランスのテキストを除いて、解説や実施法の説明が載っていないので、独学はほぼ不可能だと思われます。

話を『和声ー理論と実習ー』に戻しましょう。
ここで学ぶ和声の厳格様式やモチーフを持った課題からの橋渡しとして、次に学ぶのは対位法です。特に、厳格対位法、学習フーガ、バッハ様式によるコラール技法は、和声と補い合う関係になります。したがってハイレベルの音楽愛好家や、受験生などは、はじめは和声を3巻途中まで集中的に進め、そこからは対位法と並行して学習していくのがスタンダードです。

対位法は、おおまかに次の四つに分かれます。
・厳格対位法
・フーガ書法
・バッハ様式のコラール技法
・自由対位法

対位法は、音大作曲科入試の対策として学習するか、または自らの作曲技法を広げたいという目的によって学習されます。目的・目標によって対位法は学ぶ内容も深度も異なります。
しかし、いずれも各声部の独立性を重視し、音楽を横の流れで考えていくものなので、和声とは異なった視点で(しかしそれらは互いに相反するものではありませんが)、声部書法を習得するには有効です。

さて、ここからはクラシックから離れます。
劇伴(映画などの音楽)や広義のポピュラー音楽の話です。

先に書いたように、これらを志す生徒も、和声や対位法(または対旋律=オブリガートの作り方)もある程度習熟している必要があります。『和声ー理論と実習ー』でいうなら、第3巻の真ん中くらいまでです。

特に劇伴を目指す方は、自由ソプラノ課題、反復進行(ゼクエンツ=同じ音型を繰り返す)、偶成和音などで感覚を磨くことが重要です。そして、基礎的音感、和声的な高揚・減衰の技法、不安や期待などの和声的表現を習得した上で、コードや伴奏付けの学習に移ることが望ましいです。
コードや伴奏付けは、ある程度は理論に則っていなければなりませんが、和声よりはかなり自由度が高いため、和声できちんとしたセオリーを学んでいないと音楽が支離滅裂になることがあります。

では、和声と伴奏付け(コード充て)の具体的な違いはなんでしょうか?今、仮にC majorにおけるDm7というコードを取り上げましょう。
「Dm」はD・F・Aのトライアド(三和音)を意味し、「7」はDから数えて7番目(7th)の音なので、D・F・A・Cというディーマイナーセブンという和音を示します。

和声では7thの音に厳しい規則がありますが、コードや伴奏付けでは基本的に規則はありません。伴奏付けでは、与えられたメロディに対し適切なコードを充てることで、メロディがより生き生きとし、美しく聴こえることが大切です。

また和声では非和声音として捉える音を、コードではCadd9、Csus4、C△11、C△13(△はメジャーの意)などと捉え、和声でいう非和声音はコードの中の音と捉えます。

さらに、コード理論には、代理(裏)コードやポリコード、教会旋法(たとえばドリアンスケール=それを使うと感傷的な色合いを出したり、民族調の色合いを出したりできます)など、和声とは違った意味で幅広い響きのパレットがあります。(ゆえに音を重ね過ぎてしまい、ときに濁ってしまうことがあるため、倍音や美しい和音連結を見せる和声をはじめに学ぶことが大切です)

劇伴やポピュラー音楽の作曲法には、色々なやり方はありますが、コードを基礎に置いて考える場合は、
・はじめにコード進行を考える、またはメロディを考える
・それに合うメロディを作る、またはコードを考える
・Aメロ・Bメロ・サビなどの構成を考える
・ものによってはセカンダリードミナントや他の調の和音を借用する(←これは和声の得意とするところです)
・メロディやコードのキャッチーさを再考する
が求められます。

以上、和声、対位法、コード、伴奏付けとお話ししてきました。

クラシックを勉強する方はもとより、DTMによる作曲を始めようとする方にも参考になるかと思います。

最後に、この数年、楽器が弾けなくても、DTMで作曲を志す方が増えています。テクノロジーが発達し、誰もが作曲できるようになりました。それ自体は大変喜ばしいことです。

ところが皆さんが異口同音で質問なさるのは、「楽器経験が全然なくても作曲できますか?」というものです。

私の答えは、NOです。私には、そのような作曲は極めて想像し難いです。
何かしらの楽器経験で得た、想像力・合奏感・演奏感覚、つまり広義の聴感覚が必要だと私は思っています。

したがって、楽器経験がなくても、DTMを使うことで曲の体裁をとったものは制作できますが、人の聴感覚に訴えるものを作ることは難しいのではないかと思います。DTMを始めようとしている皆さんにも、ぜひこの記事を読んで頂きたいと思い、書きました。
(22.3.19 宮川慎一郎)

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